pazuのノスタルジックな道具

愛着の道具と遊びの回顧録

アワビおこし

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貝起こし、磯ガネ、磯棒、アワビカギ・・・地方によって色々呼び名は変わるようですが岩に張りついた鮑をはがす道具です。小さい頃の夏休みは毎日海で過ごしましたがボク等の勲章はアワビでした。ある程度深く潜れるようになると青ツブやバフンウニはわけもなく採れますがアワビは小学生には厄介です。岩や岩礁の割れ目に挟まるように潜んでいてこちらの気配を感じるとすぐに岩に張り付いて離れません。それでいて意外にも逃げ足が早いときています。引き剥がすにはアワビおこしが要ります。海辺の田舎へいくと昔は鍛冶屋さんで拵えてくれたようです。地元の子、特に漁師の子は小学生でも生意気に持っていて泳ぎも上手かった。母方の祖父母の家の近くに洋風の母屋から離れた庭のすみに三坪ほどのガラス張りの小洒落た工房みたいな作業場をもっているジイサンがいて鍋釜の修理や刃物の研ぎや溶接などをしていました。夏休み中は海の行き帰りに毎日一回はそこを覗きに行ってガラス越しに作業をながめていましたらある日偏屈ジイサンがギロリと睨みながら初めて声をかけてきて“おもしろいか?”と言うので“うん面白い”と返事をすると“中に入っていいぞ”。以来ジイサンとの距離が縮まって夏休みの中頃には友だちのようになっていました。

欲しくてたまらなかったのである日ジイサンに“アワビカギ作れる?”と切り出すと“近所の建築現場に行って鉄のボッコ拾って50円持って来い!”小躍りしながら走って病院の建築現場に行って50センチ程の鉄筋を拾って10円玉5枚握りしめてジイサンのところへ飛んで戻りました。鉄を真っ赤にしてトンカチ鍛冶屋さんが始まって出来上がったのは一方が曲がりのついた引っ掛けカギで片一方がヘラになっていてアワビと岩の間に突っ込んでテコで起こすタイプでした。紐を巻いて握りやすくして初めてアワビをゲットした時は有頂天でした。徐々に潜りに慣れて息も長くなって上達するとアワビ起こしに不満とアイデアが浮かんだので次の年の夏にジイサンのところに行ってヘラで起こして持ち変えてカギで引っ張り出すんじゃ時間がかかるからデレキのようなデザインにして曲りのカギ自体をヘラのように潰してくれれば一発でアワビを採れると言いましたら“オメエは賢い子だな”。出来たのが画像のようなアワビ起こしでした(もっとカッコ良かったですよ)。友人たちがいいなぁ~と羨ましがったので50円持ってジッチャンのところへ行って来いと言うとあんなおっかねぇジジィのところはイヤだと口をそろえて言うのでした。

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