pazuのノスタルジックな道具

愛着の道具と遊びの回顧録

おひつ

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お櫃は小さい頃は家にあって学校から腹を減らして帰ってくるとドンブリに飯を盛って納豆をぶっ掛けます。ろくに噛みもせずワシワシとカッこむと冷や飯の固まりがゴクリと咽喉を通り抜けていくとなんとも言えぬ快感でシアワセを感じる瞬間でした。食べ終わると飛ぶように外に遊びに出かける毎日でしたがボクの冷や飯好きは小学生の頃からで祖母がそんなに冷や飯やお茶漬けばかり食べてると出世できないとか貧乏性だと言われていましたがお櫃の中の冷や飯は好きでした。後年結婚した頃に東急でお櫃を見つけて購入しました。ボクが小さい頃家にあったお櫃はタガが銅を縒ったものでしたがそのお櫃はタガが竹で出来ていたので一発で気に入りました。金属の腐食が木に移ることがありません。本体は椹(サワラ)だと記憶しています。

作家の子母澤寛は新聞記者時代は文芸部の所属でかつての大名家の当主(殿様)に聞き取りで忘れられない味、大好物を取材して記事にするコーナーを担当します。ある大名家の殿様の大好物が冷や飯でした。米の滋味が一番わかるのは冷や飯だと言います。殿様の料理ははるか離れたお城の厨房からお毒見役を経て運ばれるので届く頃には冷めていてほとんどの場合将軍、大名は温かい食事というものを知りません。例外は火鉢で炙った餅くらいでしょうか。ところが明治になって藩主、殿様も平民になるとお毒見役もいなくなって香の物以外は温かで膳に上ります。それがいかんと殿様が冷や飯を食わせろと言うのですが周りが許さないと嘆くのでした。後年このコーナーの記事は本にまとめられて出版されます。子母澤寛著「味覚極楽」がそれです。ボクにはたまらない名著です。祖母の言うことは当たっていました。

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